いらかの波とかしわ餅
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


昨年とあんまり変わらぬほどに、
時々とんでもなく肌寒い朝が戻って来たりもしたけれど。
それでも、
もう季節は初夏間近なのだ、春は通り過ぎたのだと思わせるような、
そんな陽射しが降りそそぐゴールデンウィークを迎えており。
出だしの翌日こそ、雨のぱらつく曇天になったけれど、
飛び石になっていた連休の後半を迎えると、
それを見越していたかのように、再び爽やかな晴天が訪のうた。

 「なので、今朝からお洗濯三昧していたところですvv」

住人は五郎兵衛と平八二人だけなので、
日常の洗濯物に限った量なら微々たるものだが。
生業である甘味処『八百萬屋』の方で使っている、
座布団カバーに、台拭きやらふきんやら。
天気がいい日にまとめて洗うようにしているあれこれのため、
今朝は早よから それっと洗濯機を回したらしい。

 「おしぼりは?」
 「それはさすがに業者さんからのレンタルですよ。」

一応は はやっておりますものでと、
まるで若奥様か女将のような言いようを、
うふふという微笑みと共に付け足したひなげしさんだったので。
呆れ半分、あらまあと、
訊いた白百合さんが思わず蒼玻璃の双眸を瞬かせたほど。
はやっているその証拠、
平日はランチタイムと夕方のみのアルバイトさんたち、
昨年末あたりからは、
土曜日曜や祭日ともなると、
ほぼ終日で入っていただいているほどだとか。

 『…まあ、そちらは。』

忙しいようならばと、
平八が気を遣ってのこと、
お手伝いをしたいと言い出さぬようにという意味合いもあるらしく。
よほど人手が足りていないか、
あるいは、お嬢さんがあまりに暇を持て余している時を例外に、
店のお運びなどなど、やれば出来ることなれど、
手出し無用と言われているのだそうな。

 『わたしはあくまでも
  “預かり物のお嬢さんだから”ということらしいです。』

そんな扱いなのって水臭いなぁと思うし、
だったらだったで、
下宿させてもらっているお店へ貢献したいと、
そう思ってもいいじゃないですかって言って、
ゴリ押ししたこともあったんですが。
学業が本分という身での下宿なんだから
その理屈はおかしいとやり返されたその上へ、

 『水仕事で手を荒れさせるのは忍びない…ですってvv』

きゃあどうしましょうっvvと、
訊いてもないのにそこまで暴露してから、
ふくふくの頬を手で覆い、真っ赤になったひなげしさんへは、

 『…はいはい。』
 『……。(……。)』

仲良しお嬢様二人が、微妙に引いたのは言うまでもなかったり。
(苦笑)
そんな平八が、やはりやはり“店のほうはいいから”と、
遊びに行っておいでと送り出されてのこと、
足を運んだのが、まずはの集合場所だった草野さんチ。
門柱から連なるエントランスまでの小道に沿うのはツツジの茂み。
そこからもアプローチが伸びている先の、
お庭のそこここに萌えいづるは、
バランスよく配された、スズカケの木やあじさいの茂み。
それらのしたたるような新緑の中にいや映える、
白亜の洋館のようなお屋敷は、
何とかいう昭和のはじめの有名な建築家の設計なのだとか。
そんな背景からか、時たまテレビでも紹介されているそうだけれど、
とはいえ、彼女らには単なるお友達のご自宅。
高い高い吹き抜けのあるホールへと上げていただき、
メイドさんに案内され、お嬢様のお部屋へ通されると。
先に来ていた紅バラさんこと、久蔵へも会釈を向けてから、
お土産ですよと籐を編み上げたトートバッグから取り出したのが、
お重箱に丁寧に詰められた柏餅だったので。

 「そうか、明後日は子供の日でしたね。」

やはり久蔵が持参した、
残りの二人がそろって好物だという、
紅バラさん謹製 “ふんわりソフトなショートケーキ” と共に。
ミントンの白いお皿に載せられて、
テーブルへと品よく並べられてゆく、
葉っぱに巻かれたお餅を見やり。
お家でセックスアピールもないものか、
大人しめのエプロンドレス姿の七郎次が…久蔵とお顔を見合わせてから、
やおら“くすすvv”とやわらかく頬笑んだので。

 「??」

意味深ですね、何でしょかと。
軽やかな色合いの金の綿毛を、
窓からの陽に明るくけぶらせた紅バラさんが
そちらはフレアスカートにくるまれたお膝に乗っけてじゃらしてる、
アビシニアンの仔猫を思わすような愛らしい所作、
かっくりこと小首を傾げた平八へ、

 「ほら、アタシってば男の子のような名前じゃないですか。」

わざわざ今更なことを言い出した七郎次お嬢様。
この場にいるお嬢さんがたは3人とも、
一体どういう因果の奇跡が働いたのか、
それはそれは愛らしく生まれたにもかかわらず、
七郎次、平八、久蔵と、
最近じゃあ男の子にだっていなかろう、
どこか古臭い名前をつけられた身の上であり。
前世の記憶が甦るまでのこれまで、
それをどれほどのことコンプレックスにして来たか。

 「…つっても、
  小学校に上がるころには克服しておりましたが。」
 「……。(頷、頷)」
 「わたしなんてアメリカ生まれでしたから、
  それが女の子の名でもからかわれたことでしょうし。」

てぇ〜い、まぜっ返さない。
(笑)

 「それで、なんでしょうね。
  初節句の頃合いになると、
  親戚中や父の知り合いなどなどから、
  こいのぼりや武者人形が まあま届いた届いた。」

三月のひな祭りの前後は うんともすんともだったので、
尚のこと びっくりさせられたそうですよと、
さも可笑しいところころ微笑った七郎次の傍らで。
久蔵もまた、
紅色の双眸をたわめて
控えめながらも微笑っておいでなところを見ると。

 「…もしかして久蔵殿のところにも?」
 「鍾馗様が1ダース。」

武者姿の金太郎の博多人形も同じほどあるぞ、
秦始皇帝の陵で見つかった兵馬俑みたいだぞと、
何だか妙な自慢をする紅バラさんだったのへ。
あ・そうそう、ウチも熊とセットのがたくさんありますよと、
あははと笑った七郎次であり、

 「不思議と桃太郎さんのはなかったですねぇ。」
 「……?(おや?)」
 「同じように勇ましい子供ですのに、何ででしょうねぇ。」

桃太郎のがあったなら、もしかして記憶が戻るのも早かったかも?
さてそれはどうでしょうかと、
今だからこそ笑って語れる“昔ばなし”を、
可笑しそうに語る少女たちであったれど。

 『…ほんの10年少々で“昔”なのだなぁ。』

 『それどころか。
  小学生時代の話を持ち出すと、
  どうして年寄りは昔のことほど覚えているのだ
  …という顔をしょっちゅうされとるぞ。』

 『おおお、さすがは蓄積のある兵庫殿。』

無論、落ち着いておれば、
若しくは、
自分たちではない娘らがそんな会話をしていたならば、
頭の中では“たったそのくらいで?”と、
連れ合いの大人たちと同じように感じる彼女らなのかもしれないが。
何分にも前世の記憶が戻ったのは、ほんの1年ちょっと前。
なので、どうしたって…肌身で感じる感覚や直感といったものは、
少女らしい、拙くも瑞々しいものが優先されてしまうため、

 『それで、あのようにとっぴんしゃんなことばかり。』
 『ああ。』
 『お転婆な気性はさては“地”だったか。』

顎にたくわえたお髭を、
頼もしい手ですりと撫でる警部補さんだったり、
時々、襟足を見せるほどの長さにすることもある黒髪を、
今は束ねておいでのお医者せんせいだったり、
一番頼もしくも逞しい身ながら、
その手で美味しい甘味を山ほど作れる天才だったりする、
こちらもまた、
個性あふれる身のまんまに転生なされた保護者の皆様が。
それぞれに見守るお嬢様がたの素行へと、
実直なのはいいとして 加減を知らない直進ぶりへ、
こちらもまた、
揃いも揃って“はぁあ…”と溜息ついてしまわれるとも知らないで。


  ―― あ、このあんこ美味しいvv

     …、…、…vv (頷、頷)

     久蔵殿のケーキも、
     スポンジがまた一層柔らかで絶品じゃないですか。

     …、…、…っvv (〜〜〜。//////)


無邪気に微笑って、屈託ないティータイムをお過ごしの模様。
日頃の常からも、こんな風にのんびりしていてくれればいいのにと。
のんびりし過ぎて、
早く早くと急かせる小言で悩まされてる方がマシかもなんて、
こそりと思った保護者の方々。


  いやいや、これからこそ
  若いもんが活動的になる季節じゃあござんせんか♪
(苦笑)


   「………う。」×3





   〜どさくさ・どっとはらい〜  11.05.04.


  *というわけで、
   三人娘のゴールデンウィークは
   近場での顔合わせで済ます模様です。
   くどいようですが、活発になるのはむしろこれから。
   今は、夏へと向けての計画立ててる段階かと。


  「そんな害虫対策みたいなことを言わんでくれ。」
  「あ、それっておシチちゃんの前で言っちゃあダメですよ?」

  お、佐伯さんの乱入です。

  「なんだ、あやつ今の生でも苦手なのか?」
  「お言葉ですが、勘兵衛様。得意な子の方が珍しいです。」
  「さよう。さすがにヘイさんも飛び上がって逃げ回っとるぞ。」

  そこがまた意外な可愛さでと、
  訊いてもないことへまで及ぶ五郎兵衛さんのお声へかぶさり、

  「そうか。
   久蔵が幼きころ、
   何を思い出すものか、逃げもせんとじいと見つめておったのは、
   あの幇間の苦手ということ、うっすら覚えておったからか。」

  「…あの豪邸に出るのか?」

  「いや、保育園なぞで たまにな。
   周囲のお嬢様がたや女性の保育士たちが逃げ惑う、
   阿鼻叫喚の中でもたじろがず。
   膝を抱えてうずくまり、じいと観察していたらしい。」

  …そ、そうだったのね。(う〜ん)
  つか、このエピソードで何か1本書けたかもですね。
  しまった、しまった。
(笑)

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